ハーバード大ケネディ・スクールの知恵
「世界経済フォーラム」が主催する「大連サマーダボス会議」に参加して、「世界経済」という視点を持つことで、視野が広がる新鮮な感じがしています。日本では、「国際政治」という視点、すなわち国家間の政治的関係を優先する世界の見方が、国会の議論やマスコミ報道などでも多いのではないかと思います。
「世界経済」の視点からは、気候変動、パンデミック、差別や格差による分断など、経済に悪影響を及ぼすような課題は、どんどん解決すべきで、国家安全保障上の対立リスクで経済的なチャンスが失われるのはもったいない、皆で、平和で仲良く豊かになろう、ということになります
「国際政治」の視点からは、国家安全保障(=防衛)が最優先で、潜在的な脅威になりうる国は経済成長させないほうが良い、そのような国が軍事に利用できるような物を輸出してはならない、そのような事を、味方の国々は集まって確認し、同盟の体制を強化すべき、ということになります。
そこで参考になるのが、ハーバード大学ケネディ・スクールの学者たちが提唱している、「ゆるい国際秩序」です。敵対関係にある国同士でも、同盟のような親密な関係にはなれないような国同士でも、絶対やってはいけないことや、明確に双方の利益になること等、合意できることだけ合意するという手法です。敵か味方か、という極端な友敵関係の枠組みではなく、連携・協力の弱い関係から強い関係へとグラデーションをつけて、関係を調整するやり方です。
この手法では、連携・協力の弱い相手との場合、体系的なルール(安全保障条約とか貿易協定とか)で相互の関係を規定するのではなく、対話を重ねて相互の関係を測っていく、というやり方が基本になります。お互いに核兵器の先制使用はダメだよね、とか、人が住んでいるところを軍事力で征服しちゃダメだよね、というような、対話で合意を重ねていくわけです。
国家安全保障は大事ですが、それぞれの国民の生活を豊かにするような経済関係の発展や文化・スポーツの交流、気候変動など共通の課題への協力など、できるだけ拡大することも大事です。特に、科学技術力を含め、経済力が高くないと、国の防衛はおぼつかなくなります。「世界経済」の視点で自国を豊かにすることは、国家安全保障のためにも重要です。そして、うまくやれば、国家安全保障上の対立リスクを軽減できる可能性もあるのです。(終)