「少子化」の国際比較
一国の経済成長が進んで、生活水準が向上するにつれて、出生率が低下する、すなわち「少子化」が進む、というのは、どの国にも起きることです。しかし、多くの欧米諸国においては、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)が、人口維持水準の約2を、あまり下回らない水準で安定しているのに対し、日本では、2を下回って、1.5も下回って、2022年にはコロナ禍の下とは言え、1.26にまで下がっています。
ちなみに、欧米で、出生率が日本並みに低下しているのが、イタリアとドイツです。また、東アジアの韓国、香港、台湾、シンガポールが、日本以上に出生率が低いです。ファシズム国家となって第二次大戦を戦った国々や、儒教的道徳がある国や地域であり、家父長制的な権威主義の風潮が原因ではないか、という指摘もあります。
欧米諸国も、昔は女性が外で働かず、家にいて家事と育児を行う例が多く、出生率は3以上だったりしたわけです。第二次大戦後に、女性の社会進出が盛んになり、少子化が進んだのは、欧米も日本も同じです。では、その後の明暗を分けたのは何か。
出生率低下に歯止めがかかり、約2を大きく下回らないようになっている多くの欧米諸国では、女性の社会進出に合わせて、1970年代後半あたりから、女性の仕事と結婚、仕事と子育てが両立するような、「働き方改革」が進んだのです。元々、仕事と生活のバランスを生活寄りにとったり、結婚や出産を他人のことでも重視したりする、人道主義的な風潮があるのですが、政策的にも、充実した育休制度などの子育て支援策が講じられていったのです。
一時は日本よりも出生率が低い時期が続いたドイツでも、2000年代に男性育休の推進や、保育所の大幅増設など、子育て支援強化を行い、出生率が日本を上回るようになっています。
各国の出生率の違いは、25~35歳の若年層の状況が主な原因です。上で述べた子育て支援政策の違いと共に、若年層の実質賃金や可処分所得が、日本において長期減少傾向なのも、大きい要因でしょう。国を挙げて、25~35歳の若年層が、人道的な環境の中で結婚や出産・子育てできるように、集中すべき時です。
(今回の参考文献は、山崎史郎『人口戦略法案』です)
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